オカレノン 短編小説集

ビートルズの曲を題材にした短編小説集です。

『THE WORD』♯6  第1章 Ticket to ride その5

「THE WORD」 著者:オカレノン/okalennon

 

第1章 Ticket to ride  その5

 

連休2日目のAM11時。
友美は待ち合わせのカフェに着いた。
入口前で少し待っていると恵里香がやって来た。
「友美、ごめんね。待った?」
「大丈夫。私もさっき着いたとこだから。」
そう言って2人はカフェへと入った。

2日前、ランチしようよと誘ってきたのは恵里香の方だった。

恵里香は大学時代からの親友だ。2年前に結婚してから友美の実家の近くにあるマンションに住んでいる。
ちょうど実家に行くついでのタイミングだったので友美は快く誘いに乗った。
友美は恵里香に会ったら色々話を聞いてもらおうと思っていた。

学の頃から恵里香には何でも打ち明ける事が出来きた。誰にも言えない相談もたくさん乗ってくれた。

しかし2年前に恵里香が結婚してからはお互い連絡がめっきりと減っていた。
今日、恵里香に会えたのは友美にとって有難いことであった。

友美はランチをしながら恵理香に相談をし始めた。会社でのこと、そして涼介とのことも・・・。

PM2時。友美はランチから戻り、実家の自分の部屋にいた。

ベッドで枕にもたれ、CDプレイヤーの再生ボタンを押した。

昨日聴いていたビートルズのアルバム”HELP”の続きが流れ始めた。

しばらくぼんやりと聴いていると友美の心に響くメロディーが流れてきた。

友美は気になって立ち上がるとCDの歌詞カードを取ってみた。

Ticket to ride 〜涙の乗車券〜”。なんて切ないタイトルなんだろうと思った。

曲を聴きながら友美は涼介のことを思い浮かんだ。

私と彼ともこの曲みたいな結末になってしまうのかなぁ・・・。

 

PM5時。友美は一人暮らしの自宅へと帰るために母親に駅まで送ってもらった。

母親には晩御飯食べるまでいたらと言われたが遅くなるからと断った。

駅前のロータリーで友美は車から降りようとした時、母は優しく言った。

「友美、またいつでも戻っておいで。」

「うん、ありがとうお母さん。」

 

母親と別れ、友美は切符を買うために改札の自動販売機にお金を入れた。

その時、バッグから振動音が鳴った。

友美は切符を取りながらスマホを取り出した。

画面を見て心臓の鼓動が一瞬止まった。涼介からの電話だ。

 

友美はスマホを耳に当て小さく声を出した。

「・・・もしもし。」

「友美、突然電話してごめん。それと・・・ずっと連絡できなくてほんとにごめん。」

2ヶ月振りに聞いた涼介の声はとても優しかった。

「・・・ううん、私こそごめんね。」

「あのさ・・今から一緒にご飯食べ行かないか?」

「今実家から帰るとこだから時間かかっちゃうけど。」

「大丈夫、待ってるから。」

「うん、駅に着いたら連絡するね。」

そう言って友美は電話を切った。

その瞬間、友美の心の中で忘れかけていた感情が一気に湧き溢れてきた。

涙がポタポタとこぼれ、持っていた切符に落ちた。

少しして友美は涙を拭うと笑顔で歩き始めた。

 

涙で濡れた乗車券を手に持って・・・。

 

第1章 終わり