オカレノン 短編小説集

ビートルズの曲を題材にした短編小説集です。

『THE WORD』♯1 序章 Paperback writer

「THE WORD」 著者:オカレノン/okalennon

 

はじめに。

この小説はビートルズの曲名を題としていますが内容はビートルズの話ではありません。

物語中にビートルズの史実に近い内容が出る場合がありますがそこはご容赦願います。

 

 

 

序章  Paperback writer

 

 

星野光はスマホのバイブの音で目が覚めた。

画面を見ると松岡からのLINEだった。松岡は昨年卒業した大学時代の親友だ。

内容は暇なら今日会えないかというものだった。

光はベッドから起き上がると返信を打った。

「OK。何時に何処に行けばいい?」

 

駅前の喫茶店に入ると松岡はすぐに手を挙げて言った。

「おい、光こっちだ。」

光は松岡の座っている店の1番奥のテーブルに近づき向かいに腰掛けて声をかけた。

「卒業以来だから1年振りだな。元気してたか?」

「まあね。お前の方こそ心配してたけど元気そうだな。」

光は大学を卒業して以来就職せずにアルバイト生活をしていた。光には小説家になるという夢があった。

大学時代に幾つかの小説を投稿したが入賞することはなく今に至っている。

コーヒーを一杯口にすると光は言った。

「お前は出版社に就職できたもんな。うちの大学であの会社に就職できるなんて運が良いよ。」

松岡は光の言ったことを聞き流すようにコーヒを飲んだ。

「入ったら入ったで大変なんだよ。俺はお前が羨ましいよ。」

「何言ってんだ。余計に惨めになるからやめてくれ。」

「まあそう言うな。今日お前を呼んだのは仕事をお願いしたいからなんだ。」

仕事と聞いて光は一瞬表情が止まった。

期待してなくはなかったがまさか本当に仕事の話とは思っていなかったので固まってしまったのだ。

「どんな仕事だよ。こんな素人作家にさ。」

「今度俺の担当することになった文学雑誌で小説の連載をお願いしたい。」

「内容は何でも良いのか?」

「内容は決まっている。ビートルズに因んだ小説だ。ビートルズお前好きだろ?」

ビートルズは中学生の時に聴き始め、高校時代はバンドも組んで学祭にも出た経験があった。

「懐かしいな高校時代が。あの時レボリューションを弾いて本当に世の中自分が革命を起こせるんじゃないかって信じてた。」

「俺は会社で内容がビートルズと決まった時、光のことが直ぐに頭に浮かんだんだ。だから最初にお前に話を持ってきた。」

光は何の実績もない自分に声をかけてくれたことが嬉しかったが直ぐに返事ができず黙っていた。

松岡はその表情を見て言った。

「自信がないか。光、言っておくが親友の俺でもチャンスは二度とやらないぜ。」

「・・・。」

しばらく沈黙の時間があった。

「そうか、分かった。じゃあな。」

そう言って松岡は立ち上がりテーブルに置いてあった領収書を取りレジへと向かおうとした。その時、

「待て松岡、やる。その仕事俺にやらせてくれ。お願いします。」

光は頭を下げて言った。松岡は笑みを浮かべながら光に言った。

「親友に頭なんか下げなくて良いよ。よし、では早速打ち合わせといこう。」

レシートをテーブルに置き直すと松岡は店員に言った。

「すみません。コーヒーおかわり2杯お願いします!」

 

松岡と別れ光は家に帰ると早速机へと向かった。

ずっと興奮が止まらなかった。自分の小説がマイナーとはいえ雑誌に掲載されるなんて夢にも思っていなかった。

カバンから打ち合わせに使ったノートを取り出すとノートパソコンを開いた。

「よし。早速書き始めるか。タイトルはもう考えてある。・・・”THE WORD” だ!」

光はゆっくりと最初の一文をタイピング始めた・・・・。

 

序章 終わり