オカレノン 短編小説集

ビートルズの曲を題材にした短編小説集です。

『THE WORD』♯2  第1章 Ticket to ride その1

「THE WORD」 著者:オカレノン/okalennon

 

第1章 Ticket to ride  その1

 

「そっちに戻ろうかな。。」

暗い部屋の中、八神友美は母親にLINEを送りそのまま膝を抱えて蹲った。

午前0時を過ぎても寝れる気がしない。

友美は蹲ったままスマホの画面をずっと見つめていた。

さっき送ったLINEに既読はつかない。

 

友美は5年前に就職のため単身都会へと来た。

実家からはそれほど遠くもなかったが毎日通うには少し距離があった。

会社から一部家賃手当も出たので一人暮らしを始めた。

仕事は銀行員で地元では名が知れた銀行だ。

高校2年から受験勉強を頑張った甲斐もあり地元ではそこそこ難解な有名大学に合格できた。

就職活動も職種はあまり絞らずに有名な企業を選んで何社か受け、たまたま内定をもらったのが今の銀行だった。

入社してからもそつなく仕事をこなしやってきたが今年度の人事異動で新しくやって来た上司が最悪だった。

とにかくモラハラパワハラ、セクハラを日常的にしてくる上司だ。

今のご時世でも平気でこんなことをする人間がいたのかと驚いた位だ。

友美と仲の良い同僚が支店長に本気で相談したことがあったが、その後改善された様子もなく3ヶ月後に同僚は退社してしまった。

 

暗い理由はもう1つあった。

友美には涼介という彼氏がいる。2年前、友人の結婚式の2次会で知り合ったのがきっかけだった。

年齢は友美より3つ上で自動車関連のメーカーに勤める営業マンだ。

付き合い始めた頃は週に1回は会ってデートをしていたが時が経つにつれ、月に2回、月に1回、そしてついに月に0回となった。

涼介の仕事がとても忙しく会える日が減っているのは分かってはいるが、会う度にあからさまに彼の熱が冷めて来ているのを感じ、

友美自身も連絡を控えるようになっていった。もう2ヶ月近く連絡すらお互いない状態にまでなった。

このまま自然消滅してしまうんだろうなと友美は感じていた。

 

友美は蹲っていた膝から顔を上げてぼんやりと前を見つめていた。

しばらくすると、スマホのバイブが鳴り手に取った。

母親からのLINEの返信だ。

「来週の3連休に一回帰っておいで☺️」

友美はこんな深夜の時間に返事がきた事が嬉しかった。そして指を動かし送った。

「うん。」

 

つづく